トラックドライバーにとって点検は運転以上に重要な業務です。とくに「日常点検」と「始業前点検」は事故を防ぎ、法令を遵守するうえで欠かせないプロセスです。本記事では、それぞれの違いや実施すべき内容を初心者にもわかりやすく解説します。
なぜ点検がトラックドライバーに必須なのか?
運転技術よりも「備え」が事故を防ぐ
トラックは普通乗用車よりも大きく重く、走行中のリスクも比例して高まります。そのため、「走る前の準備」である点検作業が、安全な運行の基盤となります。
点検を怠れば、思わぬトラブルや事故を招きかねません。たとえば、ブレーキの利きが悪いまま走行すれば、制動距離が伸びて追突を招く危険があります。また、タイヤの空気圧不足は、走行中のバーストにつながるおそれもあります。
点検は「事故を未然に防ぐ行為」であり、「自分と他者の命を守る行動」です。
日常点検とは何か?
法令で定められた運行前の基本チェック
日常点検とは、道路運送車両法に基づいて実施が義務付けられている「自動車を使用する前に確認すべき項目」のことです。トラックに限らず、すべての車両が対象です。
以下は、日常点検の主な確認項目です。
点検項目 | 点検内容 |
---|---|
タイヤの状態 | 空気圧・摩耗・亀裂がないか確認 |
エンジンオイル | 量と汚れを確認(ゲージ使用) |
ブレーキ液 | 適正な量であるか、漏れがないか |
ウィンドウウォッシャー | 水の残量、ノズルの詰まりの有無 |
灯火装置 | ヘッドライト、ブレーキランプ、ウインカーの点灯状況を確認 |
これらは走行に直結する機能ばかりであり、日常点検の実施が怠られると、安全性は著しく低下します。
始業前点検とは何か?
業務としての運転前に行う「業務用点検」
始業前点検とは、運送業務などを行う事業用車両の運転前に実施が義務付けられている点検です。これは事業者とドライバー双方に責任があり、点検記録の保存も義務化されています。
日常点検との違いは、「業務」として運転する際に限定され、より細かな点検を求められる点です。
以下のような項目も含まれます。
- 駐車ブレーキの効き具合
- ハンドル操作の異常の有無
- クラクションの鳴り方
- バッテリーの端子の緩みや腐食
- 排気ガスの異常な色や臭い
これらを目視・操作・聴覚など五感を使って確認し、異常があれば整備士による対応が必要です。
日常点検と始業前点検の違い
用途・対象・実施義務に違いがある
両者の違いを理解していないドライバーは意外と多くいます。以下にその違いをまとめました。
区分 | 日常点検 | 始業前点検 |
---|---|---|
対象 | 自家用・事業用問わずすべての車両 | 事業用自動車(トラック・バスなど) |
実施の頻度 | 毎日が望ましいが義務ではない(定期的) | 毎回の業務前に義務付けられている |
記録義務 | なし | 点検記録の保存が義務 |
点検者 | 使用者自身(一般ドライバー) | 運転者および運行管理者 |
点検項目の内容 | 基本的な安全装置と機構の点検 | 日常点検+業務運行に関わる詳細項目の確認 |
違いを知ることで、自分の役割と責任の範囲を正確に把握できます。
点検を怠るとどうなるのか?
事故だけでなく、法令違反として罰則も
点検を行わずに運転した場合、単に「怠慢」として済まされるものではありません。以下のような重大なリスクが発生します。
- ブレーキの故障による重大事故
- タイヤの異常による高速道路上のバースト事故
- 整備不良車としての処分(車両停止や罰金)
- 運行管理者や会社への行政指導・改善命令
とくに事業用トラックでは、法令に違反すると会社全体に影響を及ぼし、営業停止や信頼喪失につながるおそれもあります。
点検をスムーズに行うためのコツ
面倒にしない仕組みづくりが大切
点検作業を日々の習慣として定着させるためには、無理なく実行できる仕組みが必要です。
以下の工夫がおすすめです。
- 点検表(チェックリスト)を常備し、チェック済みに印を付ける形式にする
- 点検のルートを決めて順番通りに行う
- 朝一番に点検時間を確保し「後回し」にしない
慣れてしまえば数分で完了する作業です。安全を守る「第一歩」として確実に行う習慣を持ちましょう。
まとめ
トラックドライバーを目指すなら、運転技術と同じくらい「点検スキル」が求められます。日常点検はすべての運転者の基本であり、始業前点検は業務としての義務です。両者の違いを理解し、適切に実施することが、プロドライバーとしての信頼と安全を支える土台となります。
未来のトラックドライバーにとって、点検は「責任感の証明」であり、「安全運転の出発点」なのです。
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